『医者殺し』と『百薬の長』

 

 ごく普通の水道水でも、あることをすれば『医者殺し』になります。昔から寝る前にお水を飲むと健康によいと言い伝えられていました。皆さんが健康になると誰も病院に来てくれないので、医者が食べるものがなくなって死んでしまうということから寝る前に飲むコップ一杯のお水のことを『医者殺し』と呼んだのだそうです。

 なぜ健康によいのでしょうか?その理由を例えば朝食を午前七時に、夕食を午後七時にとる人を例にお話しましょう。

 この人は午前七時から半日の間にごはんを朝、昼、夕の三回、その間に友達と会っては『ちょっとお茶』。午後三時にはメロドラマで泣きながらおせんべいをパリッ。実に多くの食べ物や水を胃袋の中に入れています。まさに酒池肉林の世界です。しかし残りの半日すなわち午後七時から明朝の午前七時までの間は寝ていますのでほとんど食べません。

 そうすると寝ている間に水分の補給が出来ないので、体がスルメのように干からびてきます。朝起きてお水をすぐに飲みたくなるのは、体が水分を欲しがっている証拠です。もし動脈硬化で血管が細くなっていたらどうなるでしょうか?もともと血の流れが悪いところに、ねばねばした血液はさらに通りにくくなり、ひどい場合は詰ってしまうかもしれません。それが脳に起これば脳梗塞に、心臓に起これば心筋梗塞になります。

 早朝の午前五時は『魔の時間』と呼ばれています。この時間帯に脳梗塞、心筋梗塞、喘息、胃潰瘍、自律神経失調症など多くの病気が発生するからです。それはこの時間に自律神経のうちの副交感神経系から交感神経系にスイッチが入れ替わり、その時に血圧が高くなり、いったん固まった血栓を溶かす働きも低下していることが関係しているといわれています。ここにさらにどろどろの血液が加わると、恐ろしいことになります。

 もし寝る前にコップ一杯のお水を飲むとどうなるでしょうか?最もどろどろしている時間が午前九時くらいに移動します。そうするともう酒池肉林が始まっていますので、『魔の時間』をうまく乗り切ることが出来ます。

 夜中にトイレに何回か行く方は、枕元にお水を置いておいて、トイレから布団に入るときに少しずつ飲むとさらに効果があります。

 寝る前に飲む水はお茶でも水道水でも、スポーツドリンクでも何でもかまいませんが、お酒はだめです。お酒は水のようにさらさらしていますが、アルコールが体の水分を返って奪ってしまいます。お酒を飲んだ翌朝はやけにのどが乾くのはこのためです。お酒は水分を取っているのではなく、水分を奪っているのです。これをいつも意識しておかないといけません。

 なにもゴルフに限ったことではありませんが、炎天下でゴルフなどのスポーツをしていますと、体の水分が汗などで失われて、脱水となり大変喉が乾いてきます。脱水は動脈硬化が進んでいる人にとっては『脳卒中の呼び水』になってしまいますので注意してください。ハーフを終わってビールを飲むと生き返ったような気分になります。しかしそれは水分を補給したのではなくて、アルコールを補給したのですから、ますます血液の中から水分が失われることになります。

 ましてやゴルフを上がったあとのビールを楽しみに、水分を我慢してプレーを続けるのはまさに自殺行為と言わざるを得ません。楽しいプレーが一転して後悔に変わらないように、水とお酒の区別はきちんとしなくてはなりません。

 アルコールを飲むと本音が出てきてびっくりすることがありますね。これはアルコールが脳の中心部にある網様体というところに作用して、感情・理性・記憶などの高度な働きをしている大脳皮質を麻痺させるからなのです。

 大脳皮質は脳の深いところ(大脳基底核や大脳辺縁系)から突き上げてくるものを、一生懸命抑えるのが大きな仕事なので、それが麻痺すると抑えられていたものが、わっと吹き出します。いいお酒がストレスを消してくれるのは、たまりにたまった本音や本能を吐き出させてくれるからです。例えが悪いのですが、便秘気味の方がお通じがよくてすっきりした時の感じに似ていると思います。緊張型頭痛の方はストレスが発散されて頭痛が軽くなるのですが、片頭痛の方は血管が拡張しますので悪くなります。

 いつも憂さをお酒で晴らしていると、酔っている時だけ気持ちが良くなって現実から逃避できるために、お酒がないと生活できなくなる人がいます。しらふのときは酒の飲み過ぎは体に悪いと分かっているのに、一度飲み始めると最初に「体に悪い」という理性が麻痺してしまい、「わかっちゃいるけどやめられない」という状態になります。

 一度アルコール依存症になるとそこから脱却することは困難ですし、気がついたときには肝臓がもう治らない程度まで壊れています。やはりお酒はこちらが飲むのであって、お酒に飲まれてはいけません。

 適度な飲酒とは一日で日本酒一合、ビール大瓶一本、ウイスキーダブル一杯のいずれかまでで、しかも一週間に最低二日飲まない日(休肝日)をとることです。

 酒を「百薬の長」とするか「万病の元」とするかは、酒飲み自身の責任です。

 

タバコは脳の殺し屋

 

 首を絞めるというのは、推理小説で犯人がよく使う手段ですが、なぜ首を絞められるだけで人は死んでしまうのでしょうか? それは脳が常に大量の酸素と栄養を必要とする大食漢だからです。脳は約千四百グラムですから、体重六十キロの人でわずかに二~三%を占めるに過ぎません。しかし必要とする酸素と栄養の量は体の他の部分に比べて五から十倍にもなります。

 首を絞めて首の血管が圧迫され、脳にゆく血液の量が少なくなると、とたんに酸索と栄養が不足し意識がなくなります。このように脳にとって酸素と栄養を運んでくれる血管はまさに命綱なのです。

 そのために脳の表面には細い血管が、あたかも葉っぱの裏にある葉脈のように張り巡らされています。従って血管が傷んでしまうような病気。例えば高血圧や糖尿病などで動脈硬化がすすんでしまうと、脳の血管が細くなって脳梗塞になったり、血管の壁がもろくなったりして脳出血を起こしてしまうのです。脳の病気になりたくなかったらこれらを予防ないしは治療することです。

 脳を壊す恐ろしい生活習慣といえば、ずばりタバコです。二十五才から脳の老化が始まると言いましたが、 二十五才から一日に神経細胞が約十万個死ぬといわれています。しかしもともと神経細胞の数は百四十億個と多いので、一生で数パーセントしか死にません。しかも全体の八割以上は使っていないのですから、普通はあまり影響が出ないはずです。

 しかしタバコを吸うと一日に死ぬ神経細胞数が五から十倍にもなります。これでは働いている神経細胞も死んでしまいます。

 脳の老化を防ぐためには一日も早く禁煙をしなくてはなりません。禁煙は三日では全く効果がありません。肺に溜まったニコチン、タールが血液の中に溶けこんできますので、それが消えてしまうためには少なくとも二年くらい要すると考えられています。

 頭の血の流れを良くする薬も、タバコを吸われると全く効果が無くなってしまいます。タバコを止めてくれれば医者の薬はいらないくらいです。禁煙はタバコ代と薬代とを節約できる一挙両得の策です。

 タバコを吸う人の反論として「タバコを吸うと頭がすっきりして物が考えやすくなる」というものがあります。しかしこれはイライラする禁断症状が緩和されて落ち着くだけで、脳の働きは確実に落ちていることが多くの実験結果より明らかにされています。

 また最近タバコを吸っている人に痴呆やパーキンソン病の人が少ないという報告がでましたが、タバコを吸っている人は肺癌・喉頭癌、心筋梗塞そして脳卒中などの重大な病気で死亡して、痴呆やパーキンソン病にかかる年令まで生存していないだけなのです。ある研究ではタバコ一本で寿命が十五分縮まる計算になるようです。

 「医者もタバコを吸っているではないか」という反論もあります。恥ずかしながら、日本の医療従事者の喫煙率は世界のトップクラスです。私も学生時代に喫煙していましたが、肺癌の講義をしてくれた先生の情熱あふれる説得でやめることができ、大変感謝しています。タバコの害を本当に理解する努力が医者の側にも必要でしょう。

 また「体に悪いといっても自分が納得して吸っているのだし、周りに迷惑を掛けていないのだから関係ない」という反論があります。

 イギリスで離婚裁判がありました。奥さんが自分が癌になると嫌なので、主人にタバコを止めるように言いました。しかし主人は止めてくれないので、自分の健康が心配だから離婚したいと訴えたのでした。結果は奥さんの勝訴で、離婚が認められました。その理由は本人がタバコを吸わなくても、その人が吐き出したタバコの煙を吸っているだけで、肺癌にかかる確率が四から五倍の頻度になることが医学的に証明されたからです。

 ですからタバコを吸いたければ家の外で吸わせて下さい。雨が降ろうが、風が吹こうが泣いても吸い終わるまでは家に入れてはいけません。

 最近私が最も危慎するのは、わが国の女性の喫煙率の増加が先進国の中でトップであるということです。信じられないことに妊婦さんがタバコを吸ったり、小さい子供の前で平気で煙を吐き出したりしている人がいることです。今でも不用意に置いていたタバコ一本を、幼児が誤って食べて死亡するケースがあります。子供はタバコに関しては、大人の十倍から二十倍感受性が高いと言うことを覚えておいて下さい。子供の脳の発育を止めるもののトップもタバコなのです。

 

正しいお風呂の入り方

 

 お風呂にゆったりと入って鼻歌を歌う。「ああ生きていて良かった」と思う瞬間ですよね。ところがそんなくつろぎの場所で年間に一万人もの方が亡くなっていることをご存じでしょうか? しかもお年寄りほど多く、寒くなる十一月から三月の間に急激に増えますので冬が危険なシーズンです。お風呂でなくなる人の数は、欧米では人口十万人当たり四人なのに、日本は二十三人と約六倍にもなります。これは日本人のお風呂の入り方が間違っているからなのです。

 お風呂にも正しい入り方というのがあったんですね。別に『前を隠して入りましょう』というものではありません。

 年間の死亡者数一万人というのは、交通事故で亡くなる方の数と同じです。お風呂場での事故も交通事故もその原因は似ています。

 最初はスピード違反です。カラスのギョウズイのような入り方は血圧が上がるし、湯冷めして風邪を引きやすいのでダメです。

 次に飲酒運転です。お酒を飲むと皮膚の血管が開いて血液がそちらに回りますので、血圧が下がります。さらに熱さで脱水になると、血圧が下がって失神することもあります。

 最後にシートベルトを締めないで運転することです。シートベルトは事故の衝撃を抑えてくれますが、入浴時の衝撃とは脱衣室の温度とお湯の温度差のことです。特に冬は寒いし、熱めのお風呂に入りたくなりますので、温度差は最大となり三十度を越えることもあります。これは若者でも体にこたえます。一番良いシートベルトとは家族が入った後のお湯です。「お年寄りにさら湯はいけない」と昔から言われていることですが、それはさら湯には酸素が多く含まれていて、皮膚を刺激するためです。二番湯なら酸素が少なくなっていますし、浴室内が湯気で暖められていて脱衣室との温度差が少なくなります。

 最初に入らざるを得ないお一人暮らしの方は湯船の蓋をはずしたまま蛇口からお湯を注いだり、シャワーをやや高めの所に置いて給湯したりすると、 十五分くらいで浴室の温度を約十度上げてくれますので試して下さい。

 入浴中の死亡原因は脳卒中と心筋梗塞で九割を占めています。大部分が湯船に入っている時に発作が起きますので、意識がなくなっておぼれるということになります。これを防ぐ最も良い方法は『半身浴』です。

 日本のお風呂は五右衛門風呂のように狭くて深いのが特徴です。そしてなぜだか知りませんが、肩までつからないと気が済まない人が多いようです。

 温泉ではアゴの線まで漬かってタオルを頭の上に載せている、まるで河童のような人がたくさん見られます。

 アゴまで漬かっているとき、心臓はどこにあるでしょうか?水面から約三十センチもお湯の中にもぐっているのです。そうすると水圧がかかり、あたかも後ろからジャイアント馬場に抱きつかれているように、心臓が締めつけられています。これでは心臓が十分に膨らまないので、血圧が段々下がってきます。

 このような状態なのに、なぜかザバーと潔く湯船から出ないと気が済まない人が多いので困ります。これでは下がった血圧がまた下がります。

 皆さんも湯船から出るときに目の前が真っ黒になったご経験があると思いますが、それは低血圧によるものなのです。ひどい場合は脳の血管が詰まったり、心臓の血管が詰まったりして、病気になります。

 これを防ぐには心臓を水面から下にしなければよいということになります。すなわち、首までつからずにオッパイの線で止めておくということです。女性の方はオッパイの線は若い頃の位置を基準にしてください(失礼!)。そうしないと風邪を引いてしまうかもしれません。

 オッパイの線といっても中腰では疲れます。いい方法があります。湯船から出て体を洗うときに椅子に座りますが。あの椅子は体を洗うときに使うためだけではなくて、湯船の中に入れて座ることもできます。

 このように体の半分しかつからない入浴法を『半身浴』と言います。子どもの頃から、「肩まで浸かって百数えるまで出てきてはだめ!」としかられながら育てられていますので、肩が冷えるのが嫌だという方が多くいます。その場合は入浴中に肩に掛け湯をして下さい。冷えたり、温めたりを繰り返すと肩の血液の流れが大変に良くなり、肩こりも取れ、緊張型頭痛も和らぎます。肩こりは高価なマッサージ器を買わなくてもただで直すことができます。

 また家庭内で転倒する事故のうち、約半数が浴室で起こっています。転倒して足の骨を折ると長期間ベッドの上で安静にしておかなくてはなりません。これが寝たきりやボケの原因の第三位となっていることをご存じでしょうか?

 「転ばぬ先の杖」といいますが実際に杖をついてお風呂に入る人はいません。その杖とは知恵のことです。浴室内の転倒事故は浴室への出入りの時と浴槽にはいる時に起きます。

 まず浴室への出入りはゆっくりと、壁などに手を添えながらしましょう。特にドアを閉めるときが大事です。浴槽に入るとき「またぎ越し」の姿勢になりますが、これが非常に不安定です。その時は片手ではなく、両手をついて行いましょう。

 浴槽に入ったら両手で浴槽の左右の縁をつかんで静かに体を沈めましょう。またスノコを置いて段差をなくしたり、滑り止めのマットをおいたり、手すりを取り付けるなども転倒防止に大変役に立ちます。