頭の知恵袋
脳卒中とは
脳卒中という言葉はよく知られていますが、漢字が表す意味までご存知の人は少ないようです。卒中とは“卒(そつ)”として“中(あた)る”。すなわち、突然に(卒)、倒れる(中)ということです。一瞬前まで全く元気に仕事や生活をしていたのに、突然発症する恐ろしい病気として古来より恐れられていました。
脳卒中は長らく死亡原因の一位でした。しかし降圧剤によって血圧が正常に保たれるようになったこと、塩分の摂取が少なくなったことなどにより、死亡率は下がり、現在では癌、心臓病の次の第3位となっています。
もちろん死亡率が下がったことは喜ばしいことですが、発症する患者さんも減っているのかというと、実は増え続けているのです。脳卒中により手足が動きにくくなったり(麻痺)、言葉を理解したり発したりする能力が低下したり(失語)、飲み込みが悪くなったり(嚥下障害)など、さまざまな後遺症で第3の人生を送らないといけない患者様とそのご家族にとっては依然と、恐ろしい病気であり続けています。
脳卒中は大きく分けて、血管がさけて血が出るもの(脳出血)と、血管が詰まるもの(脳梗塞)の二つに大きく分類することができます。昔は血圧が高い人多かったため、脳出血の患者さんが圧倒的に多かったのですが、現在は3/4の患者さんが脳梗塞と圧倒的に多くなっています。
脳梗塞で血管が詰まる機序として3つが考えられています。
最初は脳に分布する太い動脈から分岐する細い動脈のところが詰まるものです。細い動脈が詰まりますので、脳梗塞の範囲は比較的小さくすみます。時間が経つと、脳梗塞を起こしたところが、穴(ラクナ)のように見えるため、ラクナ梗塞と呼ばれています。血液の流れを良くし、梗塞の広がりを小さくする薬を点滴で投与する方法が基本的な治療法です。
二つ目は比較的太い血管が動脈硬化で細くなっていて、そこに血栓ができて詰まってしまうものです。動脈硬化のことをアテロームと言いますので、アテローム血栓性脳梗塞と呼ばれます。太い血管が詰まりますので、大きな障害を残す危険性が高いため、とにかく急いで(4時間30分以内に、できれば3時間以内に)血栓を取り除く必要があります。血栓を協力の溶かす薬や、カテーテルを詰まったところまで持っていって、そこで血栓を溶かしたり取り除いたりする治療法が行われています。
最後は心臓にできた血栓が脳に運ばれて脳の血管が詰まるものです。肺を通ってきた酸素をたっぷり含む血液は左房という心臓の袋にたまります。そこから左室に移動し、全身の血管を巡ります。心房細動という病気がおこると、血液が左房にとどまり、血栓ができやすくなります。この血栓をできにくくする薬を飲むことが治療の基本となります。
次に血管が破れる脳出血ですが、これは脳の中を走る細い血管の周辺に動脈硬化がまだらにおこり、動脈硬化が起きていない血管の壁に圧力がかかって、小さな動脈瘤ができて、それが破裂するものです。出血量が多い場合は緊急で開頭術を行い、血の塊を取り除く必要があります。
もう一つはくも膜下出血で、その原因のほとんどは大きな血管の壁に生まれつき弱い部分があり、そこが徐々にふくれて動脈瘤となり、破裂するものです。動脈瘤の再破裂を止める手術が必要となります。
脳卒中の原因は動脈硬化
前章で脳卒中にはいろいろなタイプがあることをお伝えしましたが、その原因は実は一つです。それは動脈硬化とそれを引き起こす病気です。
「私の脳はピーマンではなく、たっぷり詰まっています」と自慢される人でも、本当は4割程度しか脳はないのです。あとの6割は何できてきるかと言えば、それは血管です。次の写真は、患者さんが亡くなった後、樹脂を首の動脈から注入して、固まった後に脳を溶かす処理をして残ったものです。ピンク色の“桜田麩(さくらでんぶ)”のように見えるものは、すべて脳の毛細血管です。
これを見ると、脳卒中は血管の病気であることがおわかりになると思います。
動脈硬化は高血圧によって血管壁に圧力がかかって固くなり、糖尿病によって血管壁が傷つき、そこに脂肪がたまって出来上がります。この成り立ちからしても、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症を防いだり、治療をしたりして、正常にしておくことが大事であることがわかります。更に、日常生活習慣としては、肥満と喫煙が間接的に上記の病気を引き起こすことが知られています。この5つを称して「脳卒中のゴレンジャー」と呼んでいます。
脳卒中で倒れ、急性期の治療がすみ、回復期のリハビリテーション病院に入院される頃には、ご家族様も一山超えたと安堵されます。しかし同時に、ご自分は大丈夫なのかと不安に思い始める時期でもあるのです。
「脳卒中は感染する!」というと耳を疑う人が多いと思います。風邪のように感染はしませんが、脳卒中で倒れた患者さんのご家族様が同じ病気で倒れる方が多いのが事実です。その理由は動脈硬化を引き起こす高血圧などの病気の体質が遺伝していることと、体質が遺伝していなくても食生活やライフスタイルが長年同じであるため、同じ生活習慣病を発症しやすいことによります。
「一病息災」とは「持病が一つくらいある方が、 無病の人よりも健康に注意し、 かえって長生きであるということ」ですが、ご家族の病気も自分の「一病」に加えて、自分のこととして自分の日常生活を振り返ることが何より大切です。患者さんは身を以てご家族に警告していただいているのです。